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「熱を断つ」と書いて断熱 -Part2-

一級建築士ブログ

日本の住宅で起っていること

-Part1-からの続き。

日本の住宅環境はあまり良いとは言えないかもしれません。
住宅内で発生している、断熱と関係する事故といえば何があるでしょうか。
熱中症とヒートショックがあります。
前回お伝えしたとおり、表面温度と室温の差が大きい状態というのは体に負担がかかり、震えるほど寒いお風呂場はヒートショックを引き起こしやすく、夏場には熱中症をおこしてしまうこともあります。
熱中症とヒートショックはどれぐらい発生しているのでしょうか。

熱中症とヒートショック

日本の住宅ではどれくらい熱中症とヒートショックのリスクがあるのか、どんな状況なのかを見てみたいと思います。 

熱中症
総務省消防庁の 2019 年統計で熱中症患者の内訳を見てみると、救急搬送数が一番多かった7月29日~8月4日の週は18,347人、発生場所別では「住居」が41%と屋外の10.8%を大きく引き離して第一位となっています。住居内が多いというのは意外ですね。年齢別ではやはり高齢者が多いですが、成人の数が以外に多いです。

ヒートショック
冬場のヒートショックですが、交通事故死者数とヒートショック死者数がよく比較されいますので見てみましょう。交通事故死者数が2018年統計では3,532人、それに対して入浴中の急死者数の推計は約19,000人と、その差は約5.3倍以上もあります。

凄い人数ですね。これらの数字を見ると何か対策が必要なことは明らかです。

世帯あたりの用途別エネルギー消費量

こちらの表は、世帯あたりの用途別エネルギー消費量を表したものです。世帯あたりの用途別エネルギー消費量の国際比較ですが、日本の冷暖房用エネルギー消費量は他国に比べて極端に少ない、という結果が出ています。
これは日本の住宅の断熱性能が高いわけではなくて冷暖房費の削減のために「家にいるときだけ」の間欠運転か、「人がいる部屋だけ」の部分運転がほとんどで、冷暖房を使わないから消費エネルギーが少ないだけなんです。
あまり冷暖房を使用しないガマンの省エネをするので、熱中症やヒートショックなどにつながるんですね。日本以外の各国は全館冷暖房を前提とした家づくりがされているですが、もし日本も現在の住宅で同じように全館冷暖房連続運転すると、一部の地域を除いては他の国よりも消費エネルギーが多くなってしまうようです。では、日本の住宅の断熱性能はどのような状況なのでしょうか。

省エネ基準への適合状況

住宅や建築物の断熱・省エネルギー性能を評価するための基準で、省エネ基準(建築物の断熱・省エネルギー性能を評価する基準)というものがあります。これは住宅の省エネルギー性能の水準などを詳細に定めたものです。これを見ると断熱性能がどうなのかを知ることができますので見ていきましょう。
2012年に国土交通省から出されている統計によると、日本の住宅ストックの約5,000万戸中、「平成11年基準」という当時の断熱の最高基準を満たすのは、わずか5%だそうです。逆に「無断熱」に分類される住宅が全体の39%を占めていました。さらにほとんど無断熱に近い「昭和55年旧省エネ基準」相当の37%と合わせると全体の76%にもなる、ということに驚きます。全体の76%の住宅が、室内にいながら外部の環境とあまり変わらないという事です。このような環境の住宅では熱中症やヒートショックが起こりますよね。

高断熱化による健康改善効果

近畿大学の岩前教授らによる、約24,000人を対象として行われた大規模な健康調査の結果です。
ほぼ無断熱の住宅から各断熱のグレードの住宅に引っ越したご家族、10代含めてほぼ全ての年代の方を対象にアンケート調査した回答によると、各項目について転居後の住宅断熱性能が高くなるほど症状が改善されるという結果が出ているようです。
改善効果の一番低かったアレルギー性鼻炎の症状でもグレード3で10%、グレード5で30%近く改善されています。次に改善効果の一番高かった気管支喘息ではグレード3で60%近く、グレード5では70%ほど改善されています。これを見ると室内の寒さが健康に与える影響がけっこう大きいということがお分かりになったとおもいます。

健康に暮らすための室温

では、健康に暮らすための室温とはどれぐらいなのでしょうか。
英国保険省の報告書というのがあるのですが、冬季室内温度指針の最低推奨温度は18℃となっています。
さらにWHO(世界保健機構)から出されている「住宅と健康に関する新しいガイドライン」の中に、寒い季節に健康を守るためには「冬季最低室温は18℃以上」を強く勧告という内容が含められています。

まとめ

今回は 「熱を断つ」と書いて断熱 -Part2-として
・日本の住宅で起っていること
・熱中症とヒートショック
・世帯あたりの用途別エネルギー消費量
・省エネ基準への適合状況
・高断熱化による健康改善効果
・健康に暮らすための室温
以上についてお伝えしました。
Part3では断熱等性能等級についてお伝えしたいと思います。

このブログを書いたのは…

関 清一郎 一級建築士
・一級建築士
生まれも育ちも京都市内
趣味はトレイルランニングとロードバイク