ブログ 木という素材
一級建築士ブログ
木という素材
木の素材感はどこか暖かくで懐かしくて、安心感を与えてくれます。
日本には昔から木の建築の文化があり人々は木と共に暮らしてきました。
現代でも家に木を使いたいという人は多く、等身大の素材として欧米やアジアでも木が再注目されています。
身近で素敵な素材である木について一級建築士目線で解説していきたいと思います。
木の温もり
木には温かみがあります。それはイメージの世界だけではなく物理的に温かいのです。
森の中で樹木は根から水分や養分を吸い上げて葉に送ります。
木の幹にはこの水の通り道である導管がたくさん通っています。
私たちが素材として木材を使うときは乾燥させるので導管の中には水ではなく空気が入っています。
この空気が温かさを生み出しているのです。
空気には熱を通しにくいという性質があります。
空気のこの性質を利用している代表的なものが「断熱材」です。セルロースファイバー、グラスウール、発泡ウレタンなど様々な断熱材がありますが、どの断熱材も空気が熱を伝えにくい働きによって断熱効果を得ています。
近年では窓ガラスにペアガラスを用いますが、ペアガラスも同じく空気によって熱が伝わりにくくなっているのです。
つまり木は導管が断熱材のように空気を多く含んでいるので温かいのです。
また熱を伝えにくいだけではなく熱を保持するという働きもあります。
無垢の床は一度温まってしまえば、床がほんのり温かい状態になります。
私の家はエアコン暖房のみですが、友達が遊びにくると床暖房が入っていると勘違いされることがあります。
このように木は温かそうなイメージだけでなく物理的に温かい性質を持つ素材といえます。
夏の心地よさ
断熱効果があるということは冬の季節の温かさだけではなく夏の季節に涼しさを感じるということでもあります。
さらに心地よさを生み出すのが調湿効果です。
木の表面には細かな気孔があります。
気孔が湿気を吸収したり放出したりすることで調湿をしてくれます。
特に人の手や足の表面には湿気があり、木に触れたとき表面の湿気を吸収するのでさらさらして心地よく感じられるのです。
この湿気を吸収できるかどうかが建材系のフローリングと無垢のフローリングの心地よさの大きな違いになります。
建材系のフローリングは湿気を吸収できる気孔なく、肌の湿気をそのまま跳ね返すのでベタついた感触になるのです。
人はこのような感触を無意識に感じ取って、なんとなく心地よいという感覚を得るのです。
唯一無二の素材
木は森に生えているときは土の状態や日の当たり方など育成環境にさまざまな差異があります。つまり一本一本個性を備えているといえます。
木材になったときも同じものは一つとしてありません。全て唯一無二の表情があります。これは工場で作った建材製品には真似できない特徴です。工業製品はいかにばらつきを抑えるかということが求められますが、木はそもそも全て異なるのです。例えば同じナラの木を使った家でも、ある家のナラと別の家のナラは同じではなく、その家独自で唯一のナラの木です。
木を生かす
木は木材になったときにも生きています。夏と冬の温度の差や湿気を吸収放出することで伸縮して大きさが変わります。無垢のフローリングを施工するときに、熟練の大工は木の質感やその時の温熱環境を考慮して、あえて少し隙間を開けて施工します。木材が伸縮したときにぶつかって割れてしまうことを防ぐためです。このように無垢の木を扱うことに長けている大工はその瞬間だけでなく、一つ一つ異なる木に語りかけて、木を生かすことを前提に施工するのです。
経年変化と愛着
木は大切に使うことで経年変化で出来上がった直後よりさらに美しくなります。例えばお寺の床は何十年も経っているからこそ出せる美しい表情があります。木は長く大切に使うのに適した素材です。綺麗に保ち大切に使うことで美しさが増し愛着が湧きます。20年30年と家族と共に同じ時を過ごした木は美しく、きっと特別な存在として感じられるでしょう。
まとめ
なぜ木という素材を好きな人が多いのでしょうか。それは、木には①物理的な心地よさがあり、②一つ一つ決して同じものがない唯一無二のもので、③生きていて、④大切に使うほどに美しさが増す、という特徴を持っているからです。
木を使う時は材料的な特性をよく理解しなければなりません。先述の無垢のフローリングの例のように木を生かすような施工も必要ですし、過度に湿気の多い場所への使用を避けメンテナンスの容易さに配慮した木を生かす設計も必要になります。さらに家に住む人、使う人が木や家を大切に使うという気持ちもなければいけません。このように見ると少しだけ気難しいような材料ですが、日本人は昔から木を大切に使い、木の豊かさと共に暮らしてきました。その技術や文化は現代の私たちにも確かに受け継がれています。これからの時代、私たちがスクラップアンドビルドを乗り越えて大切に住み継ぐ家を作るのに、木材は最も適した材料なのではないでしょうか。
このブログを書いたのは…
石田 大喜
・一級建築士
・構造設計一級建築士
・中小企業診断士
・宅地建物取引士
趣味は英会話。只今3人の子育てに奮闘中。