ブログ 長くあり続ける家
一級建築士ブログ
一昔前、木造の家の寿命は30年と言われていました。
一世代使えば終わり、古くなれば捨てて壊して、を繰り返す。
家の性能や作り方もその期間持てば十分、という品質が当たり前でした。
高度経済成長期の住宅不足の時代であれば通用する価値観かもしれませんが今や環境問題は人ごとではありませんし、暮らしを使い捨てにするような価値観自体にあまりいい気持ちはしません。
ZENは長くあり続ける家をつくることを目指しています。
長くあり続けるとはどういうことか。
外装などは雨風にさらされますし、内装も次第に劣化してきます。一般的に長持ちするかどうかは壁や屋根など、部材の性能によるものと思われがちです。ZENの家づくりでも部材や素材の物理的な特性をご説明しながら劣化しにくく、ランニングコストが少なくて済むようなご提案をしています。しかし、単に長持ちする素材を使えば「長くあり続けられる」のでしょうか。
世界最古の木造建築
世界で最も古い木造建築は法隆寺の五重の塔であると言われています。今から千三百年以上前に作られています。五重の塔は厳選された木材が使用されているとはいえ、それは千三百年以上も長持ちする素材なのでしょうか。そんなことはありません。木造建築でそれだけの長期間もたせることはいかに質のいい木材や腕のいい職人の瓦を使用したとしても不可能です。しかし現実に法隆寺の五重塔はいまだに顕在です。法隆寺は千三百年間きちんと補修をされて、朽ちた部分の入れ替えをされてきたからこそ、その姿を保ってきたのです。1993年に法隆寺は日本で最初に世界遺産に登録されました(姫路城などと同時)。その時問題になったのが部材を入れ替えながら維持するという日本の木造建築の文化です。世界遺産登録に重要なキーワードとしてオーセンティシティ(authenticity)というものがあります。日本語では真正性と言います。歴史を持つ建築というのは部材自体が「本物」でなければならないというヨーロッパの考えです。つまり建築当時の部材が使われていないのであれば、その建築物は当時のものとは別物ではないかという考えです。そのような考えのもと法隆寺は、千三百年以上入れ替えられ続けて当時の部材は多くは残っていないので、(西洋的にみれば)「本物」とはいえないのではないか、というような議論になりました。世界遺産を認定するユネスコと日本側で議論がされた結果、最終的には部材を入れ替えて維持していくということは日本の木造建築の文化として認められて、法隆寺も建築当時から変わらず「本物」であることが認められました。日本の文化では古くなったところを交換しながら維持していくことが当たり前であり、伝統だったのです。
では、なぜ法隆寺が千三百年間も保たれ続けることができたのでしょうか。それは法隆寺が愛されてきたからです。大切に使って残していこうという気持ちが千三百年間も保たれたからこそ、メンテナンスされ、朽ちた部分は交換されて、現在私たちは「本物の」法隆寺の五重塔を見られるのです。
(写真出所:https://ja.wikipedia.org/wiki/法隆寺)
愛される家
改めて、長くあり続ける家について考えてみましょう。先の例を見ると長くあり続けるためには「メンテナンスしなくても良い」ことが大事なのではなく、「メンテナンスしてもいいと思ってもらえる」家にしなければなりません。つまり愛される家です。もちろんメンテナンスの負担は少ない方が良いので十分に配慮は必要ですが、その家に愛着を持ち続けてもらえるような家づくりにしていくことが根本的に重要なのです。私たちが住む家は多くの人に支えられるような文化財ではありません。住まい手にこそ愛されないといけないのです。
家づくりに向けて
ZENではお施主様との打ち合わせをとても大切にしています。お施主様のニーズを十分に汲み取ることも大事ですが、それに加えてお施主様自身が自分たちがこれから作る家についてよく知ることが大切だと考えています。断熱や耐震といった比較的数値で示しやすいものだけではなく、素材のこと、動線のこと、心地良い空間にするための工夫。少しでも知って、その上で選んでもらうことが愛着を持ってもらうことにつながります。
新築の時は綺麗で住むのが楽しい家でも古びてくるとだんだん気持ちが薄れてきます。ZENは無垢のフローリングをはじめ、できるだけ経年変化が美しい素材を提案しています。大切に使うほど艶が出て愛着の湧く素材です。
しかし大切に使いたい気持ちよりメンテナンスのコストの方が大きければやはり負担が大きく、蔑ろになってしまいます。できるだけメンテナンスの負担が小さくなるようにしなけばなりません。ZENでは①適材適所のデザイン、②交換時期が早い順番に取り替えしやすいように、③長持ちする素材選び、を重視しています。「建てて終わり」ではなく責任を持ってメンテナンスできるように先々のことを考えた施工をしています。例えば② 「交換時期が早い順番に取り替えしやすいよう」について、10年後20年後のメンテナンスを見据えていなければ、先に劣化してしまう部分を交換するためにまだ使える部分を壊さないといけない、という事態が起きてしまいます。これはメンテナンスコストを大きくしてしまう要因です。このように大切に使っていきたいという気持ちをキチンと受け止められる家づくりが大切だと思います。
ZENの家
大切に手入れされ、愛されてきた家はきっと世代を超えることができます。もしかしたら誰か他の人に譲る日が来るかもしれません。そんな時に大切に使われてきた家は新しい持ち主にも喜ばれます。そうでなければ取り壊されて別の新築を作られるかもしれません。長くあり続ける家、それは結果的にお施主様の経済的なメリットにもなります。基本的に持ち家は長く住めば住むほど得をします。また近年では中古住宅市場も築年数ではなく家の質自体を見るようになってきています。そうした中では大切に使うこと手入れすることは経済的にも合理的な選択肢となり得ます。
建ててくれるお施主様のこと、私たち作り手のこと、環境のこと、そして家のことを考えて、これからもZENは長くあり続ける家づくりを目指していきます。少し大袈裟ですが、日本の文化的な考え方に適う「本物の」家づくりを目指して。
このブログを書いたのは…
石田 大喜
・一級建築士
・構造設計一級建築士
・中小企業診断士
・宅地建物取引士
只今3人の子育てに奮闘中。