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ブログ 持ち家vs賃貸

一級建築士ブログ

持ち家が良いか、賃貸が良いか。長らく「持ち家vs賃貸」は多くの人を悩ませてきました。持ち家は持ち家のメリット・デメリットがあり、賃貸は賃貸のメリット・デメリットがあります。結局「人による」ということになります。一方で日本社会は世界的にみると住宅ストックに占める持ち家の割合が高く「持ち家社会」に分類されます(住田 2015;Kemeny 1981)。そのような社会で持ち家と賃貸はどのように位置づけられてきたのでしょうか。

このブログでは社会学や経済学などの様々な観点から持ち家と賃貸違いを見ていきます。そして「あなたにとって」どちらが良いかの手がかりを探してみましょう。
少し難しいお話も出てきますがお付き合いください。

住宅不足の時代から持ち家社会へ

1945年、敗戦直後の日本は420万戸の住宅が不足していたといわれます(鈴木 2006)。復興期から高度経済成長期にかけて住宅供給は重大な社会課題でした。そこで国は1951年、住宅金融公庫法を制定し長期固定の住宅ローンによって中間層の持ち家を推進し、民間による住宅供給の増加を目指しました。これが現在の住宅産業の始まりとされます。

一方、賃貸住宅は借家法(現在の借地借家法)という法律のもと借主が非常に強く保護されていました。一度賃貸として貸し出すと借主に立ち退いてもらうには相当の労力が必要となるため大家さんはリスクを抱えることになります。そこでできるだけリスクを分散させるために一つ一つの住戸をコンパクトにして、戸数を増やすことが合理的な選択となります。そうすると市場には小さな賃貸ばかり供給され、家族で住めるような大きな賃貸が作られなくなります。

本来このような偏り(経済学では市場の失敗といいます)は国が補助金などで供給に偏りがなくなるよう対策しなければならないのですが、逆に持ち家推進施策(住宅ローンに関する支援など)を行ったため「大きな持ち家」「小さな賃貸」という偏りのある住宅ストックが日本国内で形成されました(砂原 2018)。これが、日本が「持ち家社会」になった理由といわれています。

「あがり」としての庭付き一戸建て

持ち家社会が日本に浸透する中で、1973年建築家の上田篤は「現代住宅双六」という風刺的なすごろくを考案しました。これは昭和・高度経済成長期においてアパートや社宅から始まった住生活が最終的に郊外の庭付き一戸建て住宅で「あがり」となるもので、当時の持ち家に対する価値観があらわされています(島原 2018)。

このような持ち家に対する「あこがれ」の価値観は現代にも一定程度通じるところはあるのではないでしょうか。しかし昭和の時代とは異なり、昨今では面積の大きな賃貸住宅も徐々に増えてきました。また1世帯あたりの家族の人数も減少し規模のギャップは解消されつつあります。

賃貸のまま人生を終えることは昭和であればネガティブなことだったかもしれませんが、令和の世の中ではそのように感じる人は少ないのではないでしょうか。つまり持ち家か賃貸かということは近年になってやっと対等な「選択肢」となったといえます。

資産としての持ち家

*ここからは少し難しくなります。

続いて資産のお話です。持ち家でも賃貸でも住宅は建物と土地で構成されています。建物は劣化するので基本的には価値は時間によって逓減します。一方で土地は劣化による価値の低下が起きません。代わりに土地の価値は経済状況や周辺環境に大きな影響を受けるため変動します。昨今のインフレの状況下(物の価値が上がり通貨の価値が下がる状態)では土地は現物資産として機能するため資産の保護性があるとされます。このような価値はあくまで売却した時の価値(売却価格)を示しています。

一方で資産の評価方法として「収益」という観点があります。賃貸の場合は貸し出すことで毎月家賃が得られます。ここから建物の劣化分(減価償却費)やメンテナンス、管理費用などのコストを差し引いた残りが収益です。この生み出される収益をもとに住宅の価値(収益価格)を決めることができます。実は持ち家にも「期待賃料(同等の賃貸を借りた場合に本来かかる賃料)」というものがありここから収益を算出することができます。(収益=期待賃料-コスト)

この時に持ち家と賃貸で差が生じるのが先ほども出てきた「空室リスク」です。賃貸の場合は空室かどうかを大家さんが決めることはできませんが、持ち家の場合は自らが住むことで空室を避けることができます。そしてこの空室リスクの分だけ持ち家の収益は高くなります。(厳密には経済環境等の変化により同等の建物に空室が生じ、それによって家賃を引き下げられるような場合は期待賃料も低下する、つまり間接的な空室リスクがあるため必ずしも持ち家の収益性が高いと言い切ることはできません。)また災害のリスク(またはそれをヘッジする保険のコスト)については本質的には持ち家でも賃貸でもリスクに差はありません。結局誰かがそれを負担しており、賃貸の場合はそのリスクは賃料へと転嫁されています。


ここまでを整理すると賃料(持ち家の場合は期待賃料)はコスト+収益で構成されており、持ち家は金利差分だけコストが低く、空室リスク差分だけ収益が高いと言えます。

持ち家のデメリット

このように見ると持ち家の方が賃貸よりもメリットが大きいように見えます。しかし持ち家にも明確なデメリットが存在します。それは「柔軟性リスク(=変化に弱いこと)」です。例えば家族の変化(子供の独立や離婚)または環境の変化(近くに迷惑施設が建設されるなど)、転勤や転職に対して賃貸であれば住み替えが容易ですが、持ち家の場合はそうはいきません。

一般には売却価格より収益価格が高くなるため(土地の価格が高くなっていない限り)住宅は手放すと損をすることがあります。これは住宅は売りたい時にすぐに買い手が見つかるとは限らず、資産としての流動性が低いことが売却価格に反映されていることが要因として考えられます。

またもう一つの視点はキャッシュフローの視点です。期待賃料は実際に家賃が発生しているわけではありません。あくまで同等の賃貸に住んだ時の家賃をもとに仮想的に損得を勘定しているだけにすぎません。実際に現金が出て行くのは土地の分も含めた住宅ローンの返済です。発生するコストより多くのローン返済をしていることは資産を形成するというメリットの反面、多くの現金を返済に充てていることになります。そして返済が滞ればこれまで積み上げた資産を失います。賃貸であれば家賃を払えなくなったら引っ越せば良いだけですが、持ち家の場合は多くの困難が伴うのです。

「持ち家 vs 賃貸」を決するものは?

以上、長々と述べてきましたがまとめると、①住み続けることを前提とした場合は持ち家にメリットが多く、②住み替えが発生することを前提にした場合は賃貸にメリットが大きいと言えます。(ただし、住み替えの場合でも不動産価格の上昇が見込まれる場合、持ち家はその分のメリットが発生します。)

つまり投資的に不動産価格の上昇を狙う場合を除いて、持ち家の恩恵がもっとも大きくなる条件は「できるだけ長く住まうこと」となります。

長くあり続ける家

「持ち家vs賃貸」は、その場所に長く住むかどうかで「あなたにとって」どちらが良いかが決まります。長く住むためにはメンテナンスが大切ですし、何より大切に使おうという気持ち、愛着が重要です。ZENの理想とする家づくりは「長くあり続ける家」を作ることです。住み手に愛され、次の世代に受け継いでいくような家。デザインや素材、快適さは家が愛着を持って住まわれるために不可欠だと考えています。もしあなたが賃貸ではなく持ち家がいいなと思ったならば、できるだけ長く使い続けられるような住まいを作ることが理に適っています。

まとめ

持ち家は「憧れ」や「故郷」といった情緒的な面と、賃貸と比較したときの経済合理性という面の両面を捉えなければなりません。このブログでは家づくりにおいて情緒的な部分をしっかりと家に組み込むことが実は経済合理性につながることを示しました。小難しい話もありましたが、これを期に自分にとってどちらが良いか考えてみてはいかがでしょうか。

このブログを書いたのは…

石田 大喜 

・一級建築士
・構造設計一級建築士
・中小企業診断士
・宅地建物取引士
・京都市文化財マネージャー

只今3人の子育てに奮闘中。

参考文献

■Kemeny, J. (1981). The Myth of Home Ownership: Private versus Public Choices in Housing Tenure, London: Routledge & Kegan Paul.
■島原万丈(2018). 住まいの幸福度に関する調査, 『住宅幸福論Episode.1 住まいの幸福を疑え』,LIFULL HOME’S総研.
■鈴木成文(2006).『五一C型白書 私の建築計画学戦後史』,住まいの図書館出版局.
■砂原庸介(2018), 『新築がお好きですか?―日本における住宅と政治-』, ミネルヴァ書房.
■住田昌二(2015). 『現代日本ハウジング史―1914~2006』, ミネルヴァ書房.