
ブログ 住まいの幸福
一級建築士ブログ
幸せを科学する
皆さんは今の「住まい」に満足していますか?
家づくりや住まい探しにおいて、「広さ」や「性能」を重視する方は多いと思います。しかし、それだけでは日々の「幸せな感情」や「生きがい」までは手に入らないかもしれない、ということが近年の研究でわかってきました(有馬,2021:2024a:2024b)。
今回は九州大学の有馬博士の研究をもとに、最近注目を集めている「ウェルビーイング(主観的幸福)」の観点から、私たちが本当に幸せになれる住まいの特徴や暮らし方についてお話しします。
ウェルビーイングとは?
ウェルビーイングという言葉は聞いたことがあるでしょうか。ウェルビーイングとは、一言でいうと「心も体も、社会的にも、すべてが満たされていて幸せな状態」のことです。
単に「病気ではない」というだけでなく、毎日を生き生きと、自分らしく過ごせているかという「持続的な幸福」を意味します。
ハピネス: 「美味しいものを食べて嬉しい!」という瞬間的な喜び
ウェルビーイング: 「心も健康で、人間関係も仕事も順調!」という長続きする幸せな状態
近年は、働きやすい職場づくりや、自分らしい生き方を実現するためのキーワードとして世界中で注目されています。
そして「住まいのウェルビーイング」とは、居住者が家との関わりを通じて得ている主観的な幸福の総称です。単一の「住みやすさ」ではなく、以下の3つの領域に分けて幸せを測るのが特徴です。
①家の満足(認知的側面):
現在の家に対して「求めている条件を満たしているか」を頭で評価する満足度です。
②家における感情(経験的側面):
日々家で過ごす中で経験される「リラックスする」「楽しい」といったポジティブな感情や、ネガティブな感情の緩和を指します。
③家がもたらすエウダイモニア:
単なる満足や良い気分を超えた、「自分らしくいられる」「家に誇りを感じる」「生きがい」といった、人生の良好な精神状態や深い意味を指す領域です。
幸せの「質」は何で決まるか
幸せを3つの領域に分けることで、家の要素と幸せの関係を具体的に見ることができます。
①広さ・設備は「満足」を高める:家の広さや十分な収納スペース、キッチンや浴室などの快適な設備は、「家の満足度」を強く引き上げます(有馬,2024b)。
②眺望・快適さは「感情」を豊かにする:窓からの眺めがよいことや、日当たり・風通し、断熱性の高さといった感覚的な心地よさは、家での「ポジティブな感情」を強く引き出します(有馬,2024b)。
③主体的な暮らし方が「エウダイモニア(生きがい)」を育む:家具やインテリアのコーディネートにこだわる、植物やアートを飾るといった「住まいへの主体的な関与」が、家に誇りを持ち、自分らしさを感じる(エウダイモニア)ための最も重要なカギになります(有馬,2021)。
どんな住まいを選ぶ人のウェルビーイングが高いのか
では、実際にどのような住まいを選んだ人が、高いウェルビーイングを感じているのでしょうか。
持家層を対象とした調査(有馬,2024b)では、「注文・建替えの戸建て」に次いで、「中古物件を購入して自分でリノベーションした人」の幸福度が高いことがわかりました。特に、生きがいや誇りに関わる「家がもたらすエウダイモニア」の領域において、本格的なリノベーションを行った層は新築の注文住宅と同等、あるいはそれ以上の高さを誇っています。
ここでいう「自分でリノベーション」とは、ノコギリやハンマーを使ってすべてをDIY(自作)するということではありません。あらかじめリノベーション済みの家を買うのではなく、「自分のライフスタイルに合わせて、自ら業者に設計・施工を依頼した」ということを意味します。
実は、この「自ら家づくりに参加した」という主体的なプロセスこそが、幸せの源泉なのです。「将来の資産価値」や「売りやすさ」といった他者の基準を気にするよりも、「自分らしいこだわりや趣味性が表れる家」を目指して家づくりに関わった人ほど、幸福度が大きく高まることが分かっています(有馬,2024b)。
家に対しての主体的な関与
さらに実際に主体的に家づくりを行うだけではなく、こだわりの家具を置いたり、DIYで自分なりに工夫してみるなど、とにかく「自分で暮らしを作ろうとする」ことがウェルビーイングを高めるのです。
アメリカではとにかく持ち家のメンテナンスをしっかり行う文化があるといわれます。これはウェルビーイングの観点からは非常に理にかなっているのかもしれません。自分の住まいを自分のものとして大切にすることは経済的な損得以上に幸せにつながっているのです。また北欧では自分のこだわりの家具を持つことはとても重要なこととされており、お気に入りの家具で自分らしく暮らす、という文化があるようです。
まとめ
「住まいのウェルビーイング」を高めるためには、単に設備や数値上の性能が良い家を選ぶだけでなく、景色や心地よさを大事にすること、そして何より「自分らしいライフスタイルに合わせて家づくりに主体的に関わり、家を慈しむこと」が大切です。
これから家探しや家づくりをされる方、あるいは今の住まいをもっと良くしたいと考えている方は、ぜひ「自分らしさをどう表現していくか」という視点を加えてみてください。きっと、「本当に幸せな住まい」が見えてくるはずです。
参考文献
■有馬雄祐(2021). 住まいの幸福度に関する調査, 日本建築学会環境系論文集 86(785) 680-691 2021年7月30日.
■有馬雄祐(2024a).家が関連する主観的幸福の構成要素と因子構造, 日本建築学会環境系論文集 ,89(820) 282-293 2024年6月1日.
■有馬雄祐(2024b). 住まいの幸福度に関する調査, 『STOCK&RENOVATION 2024 それでも、もっと住むことの自由,』,LIFULL HOME'S総研 148-158 2024年9月.